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2012年9月 7日 (金)

『ユーラシアの東西』中東・アフガニスタン・中国・ロシアそして日本

24 杉山正明 著、日本経済新聞出版社2010

 久しぶりの更新になってしまいました。

 東洋医学の文献をみていると、自然と東西交流やら、各国・各時代の交流史に目が行くのですが、この本もそうした興味から手に取ったものです。著者の杉山正明氏は1952年生まれの方で、京都大学、同大学院文学研究科を卒業されたモンゴル史の研究者です。1995年には『クビライの挑戦』(朝日新聞社)でサントリー学芸賞、2003年にはモンゴル時代史研究の功績で司馬遼太郎賞、2007年には『モンゴル帝国と大元ウルス』(京都大学学術出版会)で日本学士院賞を受賞された、と巻末にありました。

 面白かったのは、「後醍醐天皇の謎」という章。モンゴル史研究者の目でみれば後醍醐帝が目指したのは元朝の制度であった、という部分。日本の文献にはそれは「宋」と書かれているけれども、実際には元が手本であったといいます。このことは、金元時代の医書を調べていてもみかける表現で、<野蛮>とされていたはずの元は、実は合理的でスタンダードを生み出す力があったとみられ始めているのです。

 また、第6章では足利の篤志家、山浦啓榮(ひろしげ)氏との不思議な交流について書かれていて、山浦氏が足利に華雨蔵珍之館という拓本の資料館を作られた経緯が判ります。足利学校のある彼の地でこうした日中交流の研究資料館が作られたことは、何か因縁めいたものを感じてしまいます。同館のホームページには、見学には何名かまとまって申し込んでください、とあるので、今度みんなで行く機会を作ってみようかしら、とも思いました。

 杉山正明氏が長年手がけられている『集史』が出版されるのも待ち遠しいことですね。伝統医学の世界もまさにこの本の扱うユーラシアにあり、時には大きな目で歴史を考えるのも面白いことでした。さらに、日本における世界史研究は「時代・場所を問わず、ひととおりどんな分野であれ、それを専業とするさまざまな研究者たちがほぼ隈なく、かつはまことに広汎に存在し」、「そのうえ、個々の研究もまた、ほとんどの場合、実に緻密で生真面目な、きちんとした分析・実証・論述がなされている」という特徴を持ち、さらに日本は政治的・宗教的にニュートラルな立場であり、冷静な世界史を作り上げていく素地がある、ということです。

 最後に第4章にある文章を紹介します。

「最近、わたくしどもは、日中韓をこえた「中世大交流」ということから日本文化の基層を考えようとしていくつかのこころみをしています。十三世紀、十四世紀、十五世紀においては、東アジアに文化的なボーダーはほとんどなかったのです。」これを読むと、医学書の世界でのことも確かにそのようだ、と納得してしまいました。

 

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