『遺伝子とは何か? 現代生命科学の新たな謎』
中屋敷 均:著
講談社Blue Backs (B2198) 2022年4月
この本を読むまで、ゲノム解析が進めば、人間のほとんどのことがわかってしまうのだろうと単純に信じていましたが、ことはそう簡単ではないということがよくわかりました。
著者は、ギリシア時代に始まり、人が遺伝ということをどのように捉えてきたかの歴史を細かに解説しますが、誤りであったこと、過去の否定、しかし、進んでみると過去の考え方がある意味では正しかったことなど、遺伝学の歩みは一筋縄ではいかないようです。
最も驚いたのは、ヒトの場合、タンパク質になるゲノム配列は全体のわずか1.2%でしかなく、それ以外の領域はオペレーターやエンハンサーの役割をもつなど、まだまだその仕組みは探求されるべき部分が大きいということでした。かつてのように、「遺伝子とはタンパク質をコードするDNAの塩基配列である」と明快に言うことはできないのです。そのことは、
ゲノムとはその大部分が実は『遺伝子』や染色体を制御するための配列であり、各々が機能を持った独立した「遺伝子」の集合体というより、多数の『遺伝子』を協調的に制御するための巨大なシステムというのが実態
という言葉にまとめられています。
そして、ゲノムサイズがヒトの30分の1の線虫でも、タンパク質をコードする〈遺伝子〉の数はあまり変わらず(約2万個)、ヒトを作り上げているのはその非コードの部分であるというのです。細胞数1000個程度の線虫と37兆個の細胞を持つヒトを分けるのはある意味、遺伝子のネットワークの複雑さ、ということなのでしょうか!
理科の教科書に載っていたショウジョウバエの研究をしていた人たちがまるで梁山泊の猛者たちのようであったエピソードや、DNAの二重螺旋構造を発見したワトソンとクリックたちが実はロザリンド・フランクリンという女性研究者の画像を盗み見ていたエピソードなど、面白い話も紹介されています。
「遺伝子」『遺伝子』〈遺伝子〉と別々に定義された遺伝子の話。面白い本でした。